2/11

休みだった。

朝一番に起きて滑りに行こうと前の晩から考えていた。俺なりに休みのわりにはめいっぱい早起きをして、起きたらすぐにウェアに着替えた。そういうのは珍しい。きっといい日になる。滑るか滑らないか、早起きするかしないかで、なんて大げさなんだ。でも大げさなときは調子がいい日が多い。

歯ブラシを口につっこんだら胸から何かがこみ上げそうになって、しかも歯磨き粉が死ぬほど甘く感じて、一気に、驚くほど一瞬にして萎えた。昨日は一滴も飲まなかったのに、新しく買いかえた歯磨き粉がいけなかったのか。煙草を吸ったら尚更気持ちが悪くなって、朝飯を食うのをやめた。滑る前に行くはずだった郵便局へ行くのもやめた。きっと昼まで寝れば気分もよくなると思って昼まできっかり寝た。

目が覚めたら12:00ちょうどだった。何をするにしてもまだ大丈夫なはずだと。またおおげさに、たいして本当は気分屋でもないのに、誰も見ていないところで気分屋っぽくふるまって、偉そうに一服して、氷より冷たい水で顔を洗った。

滑るのをやめ、バスに乗って雪山を登ったり降りたり越えたりして街まで出た。おんぼろバスにしては快適なドライブで、景色を眺めたり、景色に飽きたら本を読んだりたまにうとうと眠ったりしてのんびりとした時間を過ごした。ここ数日で一番ゆったりできた一時間だったように思う。運転手の腕がよかったからなのかもしれない。

銀行へ行き小銭を下ろして、本屋で雑誌を立ち読みして、なんとなく雰囲気のよさそうな文庫を2冊買った。小さなドラッグストアでシャンプーと石鹸を買った。何日か前に買った新しいトレッキングブーツで雪をざくざく踏んで歩いた。クリスマス前に買ったコートの襟を立て、田舎の雪道をぶらぶらと歩いて。何も考えることがなく、目新しい景色もなく、雪が踏まれて鳴る音だけを楽しんだ。もちろんすぐ飽きてお茶屋で休憩したけれど。そういえば途中雪球を作って誰もいないところに思いっきり投げたら民家の屋根にたまっていた雪に当たり、雪崩が起こって、歩いていたおばちゃんの上にどっさりと雪が落ちた。そんなにたいした量が崩れなかったからよかったけれど、ひどければ大変なことになっていたかもしれない。でも昔見たドリフのコントみたいだったので隅に隠れて笑ってしまった。独りで。俺、そういえば今年で25歳だ。

『ドミトリー』に帰って、安い缶ビールを二本飲んだ。街の本屋で買った文庫をたらたらと読んで、飽きたら顎鬚をカットした。爪を切るのに夢中になったり、風呂で普段洗わないところをちゃんとまめに洗ったり、シーツを替えて、洗濯をして、・・・て、・・・だった、・・・したり、・・・で、・・・だった、そんなことの連続で、何がどうなったわけでもなく、一日が終わろうとしていた。湿気を含んだ雪が降り始めていた。

部屋を出てすぐ、廊下の隅、階段の踊り場近くに喫煙できるスペースがある。いつもは一人二人決まった若い男の子がスノーボードのワックスがけをしているくらいで、皆部屋で吸うのか喫煙スペースで煙草を吸う人はあまりいない。昨日は、人がいて、皆煙草に火をつけたままほとんど吸わずに親指を弾いて灰を捨てながら、もう片方の手と肩と耳を上手に使って電話をしていた。君は元気か、俺は元気だが。今日は、明日は。来週ね。君は元気か、俺は元気だが。皆、誰に電話しているのか。気にはならないけれど楽しそうだった。俺は、煙草を二本吸い、氷より冷たい水で口をゆすいでから恋人に電話をした。Hello… 今日はどうだい。俺は…