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歯が痛い。何かしていないと痛みにばかり集中してしまうのだけれど、何もやる気がおきない。哀しい。昼食は麺にした。同僚の女の子からイブ(鎮痛剤)をもらった。二錠か一錠飲んで水をがぶ飲みしただけですぐに痛みが消えたような気がした。薬をくれた女の子だけじゃない、他の女の子たちもイブを持っていた。こんなものを一ニ錠飲んだ程度じゃ治まらない痛みと女は闘っているのよと誰かが言った。彼女たちは日常にこの薬を必要としている。俺も非常用に持っておくべきかなと訊いたら、もうすぐ横浜に帰るのだから帰ったら歯医者に行きなさいよと言われた。でも、歯医者には行くけれどイブはほしい。なんで? 名前がセクシーだ。 変なの。何かあった? いや。歯が痛いくらい。

夜、ベットの上で顎に枕を敷いて本を読んでいたらまた歯が痛みだした。軟弱だ。ビール。もっと腹に重いのがほしかった。足の指だとか土踏まずだとか。襟足の毛先だとか腿裏のほくろだとか。なるべく口から遠いところ、普段気を配らないところに意識を集中した。効き目無し。部屋を出て階段の踊り場にある喫煙スペースで煙草をふかしているといつも同じ時間に同じポーズで電話をする男がやってきた。俺もいつも同じ時間に同じ場所で煙草を吸っているというわけだ。彼は電話をしながら曇った窓を指でなぞって、オバQを描いている。電話をしている彼と一瞬目が合った。オバQがとけて泣いている。ひどくブサイクだ。多分、俺も。信じられないくらいセンチメンタルだ。

スーパーサッカーを観て、ビールの続きを。ベッドの中に入って本の続きを読んだ。それから何本か煙草を吸って、シーツの皺を伸ばして、ルームメイトの鼾に集中した。ハハッ、悪くない。ズゴゴ。ズッ、ゴ。スピー。一度息を詰まらせて、それから鼾がやんだ。残念なことに今日は最悪だった。寝る寸前まで良かったことが一つも思い浮かばなかった。努力はした。そういう日もある。オバQだって泣く。彼はいつも泣いているけれど。そういう日もある。今日がそれだった。